美容外科が目指すもの

私たちが思い浮かべる「完璧な美」というと、古代ギリシャ彫刻などに見る「黄金比」の世界ではないでしょうか。そういう美しさを私たちは、完璧な対称性と黄金分割によって構築された、ある種「人工的な」美しさだと考えがちです。ところが現代の美容外科で腕を揮っておられるドクターたちのほとんどが目指している美というものは、ひとりひとりが生来持っている「個」としての特性を生かしてこそ得られるというのです。

いわゆる黄金比にしても、実は美容外科の世界ではすでに「理想のプロポーション」というものが数値化されていて、できるだけそうした数値に近づけていくことが実際の治療で行われています。ただしこの数値はすべての人をひとつの鋳型にはめ込むためのものではなく、それぞれのキャラクターという変数によりフレキシブルに形を変えていく指針に過ぎません。身長165センチの女性と145センチの女性に、等しく90センチのバストをくっつけても、二人ともが格好良く見えるわけではない道理です。

その美容外科が目指しているのは数値の絶対性ではなく、あくまで「バランス」のとれた美しさです。それが「ナチュラルビューティ」という考え方で、現代の美容外科が理想とする「個性を生かす治療」なのです。Aという人気モデルがいたとして、百人が百人、美容外科の治療でAさんと同じ顔、同じプロポーションになってしまったらどうでしょう?技術的には充分可能でしょうし、一時的には変身願望も満足させられるかもしれませんが、そんな社会はすぐに息が詰まってしまいそうですね。

芸能界で活躍しているタレントさん、俳優さん、ミュージシャンの皆さんをざっと見渡しても、本当に人気のある人たちというのは、実力はもちろんですがルックスに関して言えば、ただきれいなだけではない、何かどこかキラリと光る「個性」を持っています。その個性がみんなにアピールして「あの人のようになりたい」と思わせてくれるわけです。美容外科のドクターは、他ならぬあなたの中から、あなただけの個性、あなただけの美しさを発掘しようとしているのです。

昔の美容外科にやってくる患者さんの中には「輪郭はモデルの誰それ、目は女優の誰それ、口元は歌手の誰それ、鼻はハリウッドの誰それ」という幕の内弁当のような注文を付ける人もいたようですが、それでは「自分」というものが完全にどこかへ消えてしまいます。こういう方向性を推奨するドクターは現代の美容外科の中にはほとんどおられません。むしろ、ほんのちょっとのポイントを微妙に匙加減して個性を最大限輝かせる。それが美容外科の目指す究極の美容精神なのです。